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狼からの招待状

第6章 風のなかの二人

 傍らの紙ナプキンに、素早くジャスミンは綴った。
 「ごたいそうなお名前で─。警察より先に見つけて…マスターから、今度は報償金だ」─鳩時計が、またのんびりと時を告げる。



 蛍光灯が、剖検室を明るく隅々まで照らしている。まるで、昼間のよう…「チノ教授」…息急ききった、若い解剖医助手が、「科研の結果が出ました、死亡推定時刻は3日前の深夜、胃の残留物無し。性暴行の痕跡も無し。外傷は首筋の痣のみで、鼻血と少量の吐瀉物が遺体に付着…血液型はO型」「─ついでに、死因も教えてくれる?」 「教授…」若い女性助手は、化粧っ気のない艶やかな頬の顔を呆れさす。
 「冗談よ。…犯人も教えてくれると、警察が喜ぶ」「教授」「でも私たちの仕事は終わらない」 遺体の首筋の痣…死後3日経ち、少し痣の色が薄まったようだ。
 「かなり…、痣痕が、丸い…指先? ─が大きい。…ですね」「ゴリラにでも絞められたのか…」「まさに─、そういう感じです…」「彼女。類人猿でも、飼育してた?」「いえ…。霊長類の稚いオスを可愛がっていたようです」
 「チノ教授! 警察の方がお見えです」

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