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狼からの招待状

第6章 風のなかの二人

 ストライプのTシャツを白衣から覗かせた、色の浅黒い若い男が、ドアから顔を出す。
 「教授室にお通しして」「はい」─階段を駆け登って行く足音。剖検室は地下にある。
 「彼女…プールのある家─豪邸に住んでた?」「えっ?」さして急ぎもせずに、スザナ・チノ教授は、テニスシューズの長い足を準備室のドアに運びながら、訊く。
 「遺体発見場所は…、郊外の小さなマンションでした」「屋上にプールがあるような…?」「いいえ、独居の年配のかたが、住人の殆どです」──くるりとチノ教授は振り向いた。黒髪の影で小さなピアスが、きらりとする。
 「彼女ね…」「はい」「溺死なの。─間接死因」「え! …」教授の思いがけない台詞に、女性助手は立ち止まった。
 「ドクター・ルーカスも同意見。─リサ。どう思う?」リサと呼ばれた白衣姿のスレンダーな助手は、黙って首を捻る…
 準備室のなかで、インターフォンが鳴る。「せっかちね」…「Ms.リサ・アキノ助手。次までの宿題にしましょう」
 …準備室のドアが閉じられ、変死体おばさんだけが、剖検室に残された。



 「リーダー?」「レイ。…」長身の頭を、入り口に打ちつけそうになる。

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