
狼からの招待状
第6章 風のなかの二人
「どうしたの」ぼさぼさの髪を子どもをあやすように撫でながら、「見せて。そこも怪我…」抱き寄せた。
…香水のむせかえるような、濃厚な香りと化粧品の甘い匂い─女の香り。
……「じっとしてなさい、良い子ね」あくまでも優しい声。耳許を擽る、かぐわしい吐息。
むずかる赤ん坊のように、マサキは身動ぎしようとする。
「可愛い…わ」長い真っ直ぐな髪が、凍る風に逆らって動いた。伏せられた長い睫毛─微笑みのかたちの唇は真紅のいろ…ドレスから剥き出しの腕は、さらにきつく少年を抱きしめた。
(…さん、姉さん─)白い蝋のいろの皮膚。立ち昇る蝋燭の燃え尽きる時の、匂い……。
(姉さん。イ、─ボンヌ)微かな声。冷風に掻き消されそうな…(イボンヌ、姉さん)……
声は、白い蝋燭のような細い腕の、黒いブレスレットの装飾の髑髏から、出ていた。
「セオドア。…」舌打ちすると、魔法の合図のように、傍らに金髪の小公子が姿をあらわした。
……「─電話する…俺から、うん。元気出して─母さん」ふぅと、深いため息、目を擦る。
エレベーターに乗り込む。最上階、特別病棟のラウンジ。
…香水のむせかえるような、濃厚な香りと化粧品の甘い匂い─女の香り。
……「じっとしてなさい、良い子ね」あくまでも優しい声。耳許を擽る、かぐわしい吐息。
むずかる赤ん坊のように、マサキは身動ぎしようとする。
「可愛い…わ」長い真っ直ぐな髪が、凍る風に逆らって動いた。伏せられた長い睫毛─微笑みのかたちの唇は真紅のいろ…ドレスから剥き出しの腕は、さらにきつく少年を抱きしめた。
(…さん、姉さん─)白い蝋のいろの皮膚。立ち昇る蝋燭の燃え尽きる時の、匂い……。
(姉さん。イ、─ボンヌ)微かな声。冷風に掻き消されそうな…(イボンヌ、姉さん)……
声は、白い蝋燭のような細い腕の、黒いブレスレットの装飾の髑髏から、出ていた。
「セオドア。…」舌打ちすると、魔法の合図のように、傍らに金髪の小公子が姿をあらわした。
……「─電話する…俺から、うん。元気出して─母さん」ふぅと、深いため息、目を擦る。
エレベーターに乗り込む。最上階、特別病棟のラウンジ。
