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狼からの招待状

第6章 風のなかの二人

………………………………「ユノ先輩、お早いですね」黒い双眸がやわらかい表情になる。
 「開店が今夜は遅れて─失礼しました」フライが脚立から降りて、挨拶する。その後ろから、お辞儀をしたジャスミンが脚立を持ち上げ、片付けに行く。
 「もう10月─?」壁にペーパークラフトの蝙蝠やかぼちゃのランタン、箒で飛ぶ魔女や白い幽霊が、光る塗料の星屑に囲まれ、踊るような格好に飾り付けられている。
 「ユノ先輩」カウンターの内にさっと入ったフライが、「リキュール、どうですか」「うん…そうだね…」
 赤い果実酒が、置かれた。
 ─小ぶりなグラスを持つ。
 「1年あっという間ですよ」喉の奥に酒精が薫る。「甘い…」「口当たりいいでしょう?」笑顔になるフライ…
 「1年と云えば」脇にやってきたグレが、炭酸水のミニボトルを2本並べ置き、「チャンミンさんの転院が、去年の秋の終わりでした」「そんなになるか」「経過はどうですか」「リハビリと─ベッドから起きて、病棟を散歩してるよ」リキュールをひとくち飲んだ。
 「精神状態は」「友だちと長電話したりで─ご機嫌だ」「安定しているのですね」ちいさくユノは頷く。……………………

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