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狼からの招待状

第6章 風のなかの二人

……「…先輩─?」慌てて目を上げると、フライのそれとぶつかった。訝しげな視線が、心配のいろに変わる。…「どうしたんです?」「うん─」甘い酒精の匂い…
 「両親が、帰って来て欲しいって云うんだ」ジャスミンが、新しいタンブラーを用意する。
 「妹がね─」タンブラーに炭酸水を注ぐ。
 ─新しい客が入ってきたらしく、ジャスミンの挨拶の声と、軽い鈴の音色が重なる。
 「…別居して、子供たちを連れて実家に戻ってるんだ」ひときわ、大きな声──「グレ。来たぜ、良い店だ」「論文は? 余裕…かな?」「まあな」グレの大学の友人らしい客は、ビールを頼み、賑やかに喋り出す。
 「妹は…、俺の今の事務所の社員と…、家庭を持ったんだ」「妹さんがおられるんですか」「ひとりきりの妹だから、幸せな結婚をして欲しかった…」「別居というのは─」「夫婦仲が冷えて…原因は俺」「え? それは」「俺のスキャンダル。夫は事務所で肩身が狭い。子供たちは保育園で苛め、妹は買い物にも出られない」「深刻ですね」 …また、新しい客─グレの友人と顔見知りのようで、同じテーブルに席を取る。
 ワインを注文したらしい。ジャスミンがワイン瓶とグラスを運ぶ。

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