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狼からの招待状

第6章 風のなかの二人

…「妹は子育ての悩みもあって」…乾杯の声。「田舎の実家に戻った。両親もいるし、幼馴染みも心配してくれて」─ワイン談義が、後ろの席で始まった。
 「今は元気らしい。ただ、母親が─」ワインを追加する声に笑い声が、弾ける。「お母さま、どうされたんです」フライがワインの肴の用意をしながら、訊く。
 「俺も妹も、母親の自慢の子供だった。親族の集まりでも…誉められて」「そうでしょうね」「─歳を取って。愚痴っぽくなって、…俺が不安にさせてる」「それが、ユノ先輩の悩み…ですね」リキュールを飲み干し、頷いた。
 「チャンミンのことも母親も、心配だ…」拍手と笑いが後ろのテーブルから起こった。
 「それでも、チャンミンさんが快くなってきて、安心ですね」「まぁね。退院は、まだまだ─」 …唄が聴こえてくる。クラシックな曲調が、次第に合唱のように…賑やかに……



 「─リサ。考えごと?」頬杖をついていると、隣に軽やかなコロンの香。「グレ」「座っていいかな」トレーには、カフェオレと焼きタルトがのっている。
 「おいしそう」「よかったら、どう?」甘く焦げた生地が、舌に熱い。

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