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狼からの招待状

第6章 風のなかの二人

 「あのマダムの鑑定?」カフェテリアの横長のテーブルに、レポート用紙や警察の報告書が散乱している。
 「チノ教授から宿題出されてさ…」「宿題? 僕でも手伝えそうかな」「いいよ、グレ─実習あるでしょ」青い大判のノートに、[精神鑑定事例集]の表紙。‘ハンドブッグ 精神分析と心理’というタイトルの部厚い本も、トレーの脇に置かれていた。
 「にわか勉強…。あ、これ渡しとく。リサの友人知人にもお願い」白い名刺が数枚─エスコート・クラブの新しい名刺。 リサが名刺をいちまい手に取る。
 グレが、リサの眼鏡を掛けた横顔に目を向けた─
 ……壁を背にした離れた場所で、女子学生のグループが、ふたりを見ながら先ほどから囁き合っている。眼鏡にショートカットのリサと、ロングヘアが整った貌をやわらげるグレ。異質なペアが、気になるらしい。
 ─「学食デート? お邪魔…」白っぽい灰のジャケットにブルージーンの男が、鮮やかな色合いのマフラーを取りながら、声を掛けてきた。
 「ヨナ先輩」「お久しぶりですね」…セミロングの茶いろの髪が、黒いフレームの眼鏡の顔を包む。…女子グループが、ため息混じりに、ざわめく…


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