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狼からの招待状

第6章 風のなかの二人

 「先輩、どうぞ」リサの隣に席を占める。…女子たちの囁き声、再び… 「ボストンはどうです?」すすめられたタルトをひとつ取り、「研修医の名目での留学だけど、忙しい。想像以上に厳しい環境だよ」「一時帰国は─、婚約会見かなにか?」リサが笑い出す。
 「結婚だの婚約者だの…そんなに退屈してる暇は、ない」かぐわしい紅茶の紙コップを、グレが運んできた。
 「サンキュ、温まるよ。グレ」「ヨナ先輩にも、これお渡しします」「エスコートクラブ…`ALLAN´─バイトか。忙しいな、お前も」黒い縁の眼鏡。その奥の目が優しい眼差しになる。
 「ドクターになったらもっと忙しいのでしょう」「そう。医学生のうちは、まだ気楽だ」紅茶を啜る。
 「ヨナ先輩」突然、リサが、「宿題を考えてるんです、ヒントをください」「─オ? 難問か…」紅茶の湯気に曇った眼鏡をかけ直す。



 …鼻歌を唄うように、ぶつぶつ独り言を云いながら、パズルを組み立てる。長袖のTシャツの痩せた身体を、ゆらゆらさせていたが急にパズルを床に投げ散らかした。
 深緑色のセーターの女性が駆け寄る。─首から心理療法士の写真入りの名札を、下げている。

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