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狼からの招待状

第6章 風のなかの二人

 「ヨナ先輩。クリスマス休暇にまたお会いしたいです」「クリスマスか、残念だが、両親と一緒に祖父母の静養先に行く。南イタリアのリゾートビーチだ」白いタートルネックのセーターに、今夜は楕円形の薄茶いろの眼鏡を掛けたヨナの表情は、やわらかい。
 「弟たちも、新年にはやってくる。久々の団欒だ」「良い新年ですね」  入り口近いテーブルでは、紙袋からあざやかな緑の衣服を取り出した子供たちが、両親らしい男女ふたりと笑い合っている。ハロウィンの仮装の衣裳を買ったらしい。
 レストランの扉の向こうは、免税店や土産物の雑貨ショップのフロアになっている。
 「空港まで、グレ、見送り有難う」「タクシーのなかでも…いろいろご教示いただきました」「雑談しただけだ…大袈裟だ」そう云って笑う。
 両手にショッピングバックを下げた白髪の老夫婦が、テーブルの子供たちに微笑みかけながら、レストランから出ていく。
 「勇退する恩師に挨拶に帰って来たんだが、母校の研究会の様子も見られて─良かった」「“俺は精神科医より患者にふさわしい”…僕が新入生の頃の研究会で、先輩はそう云ったんですよ」「冗談…と思ったか? 俺は本気でそう思ってる」

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