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狼からの招待状

第7章 ブルー・クリスマス

「ドーナツ? 嬉しい…」「先輩の好きな甘いのを選んできました」
 ピンクのクリームいろのドーナツを、ユノは口に入れる。
 「傷に障りませんか」「甘いから。美味いよ…」チョコレート・ドーナツにも、手を伸ばす。手首にはまだ、消えない痣。
 …昨夜、大学の附属病院で手当てを受けたユノ。グレの先輩医師から、薬の処方も受けた──
 「昨夜は時間外で処置代は免除。今日はドーナツのお見舞い。…グレ、悪いな、甘えさせてもらってる」「怪我のユノ先輩を放ってはおけません」そう云って、紙コップの蓋を取り、ユノに勧める。蜂蜜が温められた匂い…
 「軽い打撲傷と擦り傷。口のなかも切れてましたね…。顔が腫れてしまった」「あぁ─。唇もね…、沁みて痛いや」
 おどけて云うユノの、赤みの残る顔を見据えて、「チャンミンさんはひどいです。錯乱状態だ」「以前から…なんだ。すぐ手をあげたり、蹴飛ばす…悪い癖」
 自分の口元に、紙コップを運びかけたグレ。…黒い瞳を一瞬見開き、きつい眼差しになる…火竜の焔の双眸。
 「チャンミンは、ステージの裏方にも、本番中に八つ当たりしたり…」言葉を切って、ユノは黙った。
 

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