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狼からの招待状

第8章 水仙月

 石畳の、石の街。化石のように時間の止まった古い街─どんよりと曇った空に、微かに春めく日。
 …やわらかな光が、フライの髪を明るいいろに、染める。



 「エナジー・グループ、…で、ございますか」 銀製ポットを持つ手を止める、キム侍従。
 「グループ総帥のミスター・パーク…」「パク・スチョル総帥。90歳になられましょう」
 香ばしい、お茶のかおりに微かな甘さがある。 春先の小さな花のような、甘い香り…
 ─特別室のソファーに、グレひとりが掛けている。
 チャンミンは、退院まえ検査のため、以前入院した聖マリアンナに外泊中。
 ユノが付き添い、キム侍従が留守番に残っていた。
 「グレさま。久しくお見えにならず…春めいて、参りました」
 白いティー・カップを、レース生地のクロスに置く。
 「お二人で退院準備のお出掛け…その時期になったんですね」
 ソーサーに紅茶茶碗を戻したグレに、「ところで…。グレさまが何故、エナジー・グループの総帥のお話を?」
 

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