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狼からの招待状

第8章 水仙月

 少し照れたような笑みを浮かべ、「友人が、雑誌記者に声を掛けられて─東洋人だから、グループを知ってると思ったらしい」「記者に…」「それが、気になって…、キム侍従。何か、ご存知でしょうか」……熱い紅茶の湯気のなか、戸惑いの表情─キム侍従。
 「さようでございますか」見つめる黒い瞳…グレ。
 「わたくしの…きいておりますことは」銀製ポットを、テーブルの隅に置き、「総帥が、ちかぢか実業界を引退され」ソファーに浅く掛け、「グループの総指揮を、後継者に委ねられると」「後継者…」「はい」キム侍従は、深く頷く。
 …グレが俯くと、黒髪が淡いベージュのセーターにゆるゆると、流れる。
 「後継者のかたというのは…」「お孫さまがお二人─双子のご兄弟でらして」「それで、─どちらが、後を継がれる…?」目を瞬いた侍従は「仲の良いご兄弟で…」言葉を切り、「後継者争いなど─いっそ、共同経営をされて…」「後継者争い。─それがニュースに?」「総帥の引退は、それだけでニュースになりましょう」ゆるゆると、首を振りながらそう云った。
 「グレさまと、お二人は確か同い年」グレの襟もとの、赤いスカーフに眼をやり、「グループ後継には…歳が足らない─」

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