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狼からの招待状

第2章 霧魔

 ユノが手を差し出すと、順繰りに手を握ってくる─なかには、頭を何度も下げたり、「感激です」と両手を出したりの…握手会になった。
 最後のひとりは…フライだった。がっちりとユノの手を握って、「お前ら、バイト代入ったら、店来いよ…」シャワー室に向かう弟連中に、声を投げた。握手し合う二人の肩を、いつの間にかやってきたオーナーが両手で抱く。



 ……ジムの帰り道。家路を行く少年同士のように、二人は肩を並べる。「ユノ先輩もボクシング長いんですか」「ストレス解消にサンドバッグ叩くぐらいだよ」
 ─遠く、秋の夕暮れの風に乗って、教会の鐘の鳴る音…「俺は友だちがやってて、はじめたんです」「友だち…グレ…さんって呼んだ、─彼?」「あ…グレ─、あいつはムエタイの練習生」右足を前方に蹴り出す。脚はまっすぐに伸びている。
 「本場で通用しそうだよ。その蹴り」「タイ…行ったんですか」「リングにも、上がった」「凄いですね」少し微笑い、「CFの撮影だよ」フライを見ると、風に靡く栗毛の馬のたてがみに似た髪が、横顔にかかる。郷愁を感じさせる顔だ。ユノより背が高い。

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