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狼からの招待状

第2章 霧魔

 「そうだ…チャンミンさん、どうですか」「治療室に移った。来週は病室に戻って、静養だ」「早く退院できるといいですね」ひんやりした微かな風が二人のあいだを、吹き過ぎる。
 「ありがとう…。あいつが病室にかえったら、写真集渡したい」「写真集に飽きる前に、きっと…良くなりますよ」
 ─大通りから、バスのエンジンの唸る音が、響く。
 「一緒に店来ませんか。今日はグレもいるんです」頭の後ろで結び、肩までの髪の横顔が明るんだ。「彼もバイト…」「出張ホストがバイト。店は手伝い。本業は医学生なんです」
 クリスマスのデコレーションになりそうな、小さな家々。その裏手に当たる小路には、石造りの倉庫らしいものもある。「医学生?」「来年卒業なんで、専攻を絞る…法医学教室に残るか、精神科医で独立するか─」「優秀だね」「誇らしい俺の弟です」肩掛けの帆布製バックの紐を、持ち直すと、筋肉がシャープに動く。
 ジムのシャワー室で垣間見た、フライの戦士のような身体を、ユノは思い起こす。 
 「あいつは俺の3歳下。俺を呼び捨て。兄さんて呼びやしない」笑い声を立てるユノ。

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