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狼からの招待状

第2章 霧魔

 目の前をサイクリング車に乗った、金髪の青年が白いサンバイザーを目深に被り、チェーンの音をさせ走り過ぎる。
 「俺の躾が悪いんでしょうか、─こっちが近道です」サイクリストがいい腰つきで、遠去かっていく…視線を感じ見上げると、象牙色の建物のベランダから、ミント色の敷物の上の大きな虎柄の猫が、闖入者を見下ろし、冷めた一瞥をくれた。



 「グレ」カウンターの下から、笑顔を向けてくる。ユノを見て、会釈して、「オソォセョ」─挨拶した。
 「グレ。お前…ザワークラフト、作れ」「掃除途中なんです」「…ん? それは俺が後はやる」グレの手から、ダスターを取りあげた。
 「どうぞ」カウンターそばのテーブル席を勧められる。「開店まえに悪いね…」「ユノ先輩なら、いつでもおいでください」おしぼりを置いたグレが、受け合う。
 「フライ。今夜はマスター、顔出せないから、閉店まで頼むって、電話あったよ」「オ? 陳アジョッシ(おじさん)の処かな…わかった」カウンターから伸び上がるように、「お聞きの通り、マスターいないぶん…サービスしますよ」フライが告げた。

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