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狼からの招待状

第2章 霧魔

指の間から、割れたワイングラスの脚が床に落ちた。
 「酔っぱらいは出ていけ」グレの足技が相当効いたらしい。背中をさすりながら、呻く。「情けないね」残ったステーキ肉を手づかみで噛じりながら、チェンは呟いた。



 「お帰りになる─?」せかせかと頷き、「来週手術をいくつか控えてましてね」「チャンミンは…」手を振り、「経過は良いようです」黒いふちの眼鏡をかけ直した。
 「それなら…僕も安心しました」「じゃ。ご心配どうも…飛行機の時間があるから」出し抜けにソファーから立つと、ロビーを黒い革のバックを下げ、小走りに出ていった。



 ──秋の終わりの陽が時折、翳る。(冷たい従兄さん…)「おじさん」(医者なら親身になれ)「おじさん」「あっ…え?」膨れっ面の─少女。イボンヌが、臙脂のちいさい薔薇を散らしたドレスを纏い、午後の路地裏に立っていた。
 「昼間から、寝ぼけて…」キィー…と耳触りな音をさせながら、薄青いドアが開きっ放しで、風にあおられ、長い影を伸ばしている。
 「恋人を助ける方法、あるわ」ブーツの歩みを止め、白茶けた壁の前のベンチに掛けた。「助ける…?」「座りなさいよ」

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