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狼からの招待状

第2章 霧魔

 赤茶の髪が肩の辺りにかかり、痩せている。下を向いた顔は唇がふっくら紅い。「また、ジャスミンのだんまりか」「はにかみジャスミン。今日も無口」唇をかすかに開けて、顔をあげた少年。  ─ユノと目が合い、恥ずかしげに笑う。丸首のセーターが、あどけない顔に似合っている。
 (チャンドラ…)爆音が近づき、ドアが叩きつけられた。「Get'lost」バイクのエンジンが唸り、灰色の古びた床を、黒いタイヤがウロボロスのような回転で、削る。
 銀のチェーンが、白いフルフェイスのヘルメットの顔を打ち砕く。バイクは後ろに退がった。チェーンはハンドルを握る革手袋に、振り下ろされる。金属音…ヘッドライトの割れる音。奇形猿の鳴き声のような男の悲鳴。
 チェーンをさらに振り上げるのは─ジャスミン の手だった。
 …前面の壊れた部品をカタカタさせ、バイクは小路にようやくバックし、黒煙を吐きながら、走り逃げる。「きみ。大丈夫?」銀のチェーンを畳み、ポケットにしまうジャスミンに、ユノが近寄り声をかけた。
 頬を染め、少女のような笑顔で頷く─「傷はない?」バンダナで紅らんだ頬の血を拭いてやる。「コマォョ…、ユノヒョン(ありがとう、ユノ兄さん)」

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