テキストサイズ

狼からの招待状

第2章 霧魔

最後のフレーズを、フライがリフレインで奏で、ため息と拍手でユノのステージは、終わった。
 「ヨクシ(流石)…」アンコールのざわめきのなか、「ユノさん。素敵でした。こちらこそ、感謝です」マスターが、カウンターを回って、フライからギターを取り、「ご帰国の準備もおありでしょう。ユノさんをお送りする最後の歌…」イントロを弾く─ざわめきと、歓声に、ユノの顔が紅潮する…『チュムン(呪文)』  
 スタンドカラーの白いシャツに、濃い茶のベストのマスターが、唄い出すと、手拍子のリズムがあちこちから、上がった。



 ……霧の深い朝…石畳みの街はまだ眠りのなか…タクシーの窓のそとは、霧にしっとり濡れ、視界は利かない。
 (おとといの夜、楽しかった)プラタナスの木立も、白い幕に覆われたようで、見えない。(『呪文』歌って踊って─まるでファンミーティング)…太陽の光を遮る白い朝霧の降る街を、黒い大型タクシーは、走り抜けていく。空港への高速道路に入る。ふと後ろを向き、(帰るよ、チャンミン。元気になって、幸せに…)霧がさらに濃くなったようだった。
 (飛行機、飛ぶかな)ゲートをくぐりかけた車内に、スマホの呼び出し音─

ストーリーメニュー

TOPTOPへ