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狼からの招待状

第2章 霧魔

キム侍従だった。 
 「ユノさま? 侍従のキムですが、どちらにおいでですか─」「空港に向かってます」「チャンミンさんが、手術を受けられます」「退院できるのでは…」「処置で急変がありました。手術は今夜です」「どういう、手術を?」「開頭手術です。ドレーンで処置できなかったものを、取り除きます」
 タクシーは空港内の駐車場に進もうと、している。「戻ってくれ、聖マリアンナ医科大病院、急いで」
 革製の黒い帽子の運転手は、大きな鼻を不満げに鳴らしたが、「倍払う」財布の紙幣の束を見て、ハンドルを切り、アクセルを吹かした。



 ─特別室は、久しぶりだった…。調度は変わらない、大型のベッドが空っぽなだけ。「…エミンさん、は?」「会長とこちらに向かわれる途中、霧で通行止め…ホテルにお戻りになりました」熱いデミタスのコーヒーが置かれる。
 「ユノさまはもうご帰国されたかと…」棚の隅の写真集に目をやった。 昨日、病院の受付に預け、キム侍従に帰国の挨拶メールで、言付けたのだった。
 「空港から、Uターンです。欠航でしょう…霧で真っ白です」デミタスを置く。テーブルの端に絵本のようなものがある。


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