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狼からの招待状

第2章 霧魔

「え? 何故です」(手術前の検査で、脳内出血も見られず、脊髄液漏れも治まっており、症状の回復が確認されたのです)…キム侍従の話ぶりには、深い安堵感があった。



 「そうでしたの。それでわざわざ、チャンミンさんのお見舞いに」「兄さんが退院したら、思い出話をしたいです」グレが香る紅茶碗に顔を傾ける。クリーム色のシャツの肩を黒い長い髪が滑る。シャツは袖がふくらみ、ゆったりした仕立て。 …エミンの値踏みの目つきが、媚びた色目に変わった。
 ─チャンミンと同じマンションに、子供の時に住んでいた、幼馴染みの弟分。入院を、大学の教授から聞いた…その作り話さえロクに耳に入らない様子のエミン。
 「チャンミンさんが退院したら、三人でお食事しましょう」「お祝いの食事会…お二人のご結婚も。楽しみです」思わせ振りな含み笑いのエミン。
 ─キム侍従が恭しく、グレに紅茶を注ぐ。「香りの良いお茶ですね」目尻に微かな笑い皺を、キムは刻み、グレに一礼する。
 「医学生なんて勉強大変ね」「苦学生でもあるんです」「苦学生って?」カップを受け皿に戻して、不審そうに訊く。

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