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狼からの招待状

第2章 霧魔

「留学で大学卒えたって見栄を、張りたいんだろ」切り捨てるように、フライが云った。「金持ちは、嘘つきな異常な存在」黙っていたマスターが、布巾を棚にしまいながら、「聖書にも書いてある」無表情に云う。
 「チャンミンさんは」じっと俯いたままのユノが、目だけをグレに向ける。「容態は安定しているようです。脳に造影剤を入れて、精密検査を受けるそうです」「退院は」「まだ先になりますね…」フライがため息を吐く。
 「僕またお見舞いに行きます、今日約束しましたから」「悪いな。厄介事に引き込んで。大学もあるのに」いくぶん、蒼ざめた顔のユノに、「先輩。遅い時間に申し訳なかったです。今夜は店で会合があって、こんな時刻になってしまった」
 壁の高いところの時計は、とうに日付が変わっている。ふっと笑い、「安心したから、今晩は久しぶりにゆっくり眠れそうだ」口もとに琥珀いろの中身のグラスを運んだ。
 「あ…ニュース知ってます?」マスターから洗剤の大型ポンプを渡されたフライが、シンクを鮮やかな色合いのスポンジで流しながら、「教会で中国人の殺された話し…」「そうらしいね」

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