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死んでも愛して

第8章 ハチゾン

「こないで…」

女がつぶやくように言う。

言っても通じない、無駄だと思っているくせに、それでも言う。

俺はそのままタイル張りの床にすすむ。

(ムダだよ…オレハオマエヲクウンダカラ…)

俺の心はすでに食人屍のそれに支配されていた。

女を喰らう、それしか頭になかった。

高揚する。

ウマイにちがいない。

柔らかい肉、温かい臓物…とろける脳みそ。

がまんできない…!

(オンナ…クウ…クウ…)

それまで人としての意識を保っていたのに、やはり生身の人間を目にすると、身も心も化け物におちるのか。


ジュジュジュ…!ぼこぼこぼこ!!

俺が尿だまりに足を踏み入れたとき、異変は起きた。

尿に浸かった足からアブクが出て、白い煙があがったのだ。

ー何だ?足と尿が反応している?

ブシュシュシュー!ボコボコボコ!

俺の腐った足が見えなくなるくらいに白い煙があがり、反応が激しさを増す。

痛みはない。

痛覚はすでに腐っている。

白い煙もけむたくないので、燃焼によるものではない。

そう、まるでドライアイスを水に入れたときのような反応の仕方だ。

ー何が起きた?

驚いて、とまる。

ーやはり、罠か!何をしやがった?

女を見る。

しかし、女も驚いて目を丸くして、口を開けてかたまっている。

ーなんだ?こいつ?こういう風になるのを知らなかったのか?

ごぼごぼごぼっ!

関係なく、反応がつづく。

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