不純異性交際(上) ―ミライと瀬川―
第24章 それぞれの事情
「うーん…思いつかない。 あっ…!!」
彼が急に立ち止まると、繋いでいた腕がぐんと張る。
「えっ?なに?」
目線の先には、帽子とマスクをした男女が腕を組んでこちらに歩いてくる。
「…あれ、平野じゃね?」
「全然分かんない。だとすると彼女と一緒かな?」
「いや…」
立ち止まって小声で話していると、男もこちらに気付いてハッと立ち止まる。
しばらく無言で向かい合うと、男は面目なさそうにこちらに歩いてくる。
「あ、ほんとだ!平野だ。瀬川くんすごいね(笑)」
と言うと同時に、私たちが手をつないでいることを思い出す。
どうしよう…。
「まじかよ~(笑)会っちゃったね(笑)」
平野がへらへらと私たちの前に来る。隣には腕を組んでいる女性も一緒だ。
「映画を観にね(笑)」
瀬川くんは手をほどかないまま平然と答える。
平野は、繋がれた私たちの手を確認すると
「ちょっと…お互いコレで…お願いします」
と言って人差し指を顔の前で立てる。
「別に言わねーよ(笑)」などと2人が少し談笑すると、「じゃあまた夜に」と言って別れた。
「ねぇ、ナイショのポーズしてたけど…どういう事??」
「平野が一緒にいた人、人妻なんだよ。俺も会ったのは初めてだけど、もう何年か前から一緒にいるらしい」
「えっ…そうなんだ…!」
自分の立場を考えれば、私には何も言えなかった。
「でも私たちを見ても平野ぜんぜん驚いてなかったね」
「あぁ……ごめん、俺平野には言った。あいつのあの状況分かってたから言いやすいってのもあったけど、昔から仲良いしあいつ口は堅いから…」
私の顔色を伺うように瀬川くんは言う。
「言ったって、なにを?」
「なにをって…んー…まぁ初めから平野は俺がお前のこと気にかけてるの知ってたから。そういう関係になった、って言った」
「…そういう関係って??」
「お前なんでそんな目キラキラさせてんの(笑)」
「だって~!」
「オムライス作ってもらったしうちにも泊まったって。それだけであいつは察してるよ。男はね、そんなに具体的なことは言わないの(笑)」
私たちはじゃれ合いながら映画館へ向かう。