不純異性交際(上) ―ミライと瀬川―
第29章 睨み合い
瀬川くんは動揺する素振りも見せず、
「あ?何?」
と冷静に答える。
「平野がさぁ~!ミライちゃんに帯結んでもらったって言うから来たんだよ。俺もやってよ~!」
どうやらコウヘイくんは何も気付いていないようだった。
まだドキドキしている鼓動のままに、私は瀬川くんの帯を結んだ。
「よし。じゃあコウヘイくんもこっち来て」
「は~い♪」
ひざを付いて帯を整えていると、上から覗き込むようにコウヘイくんが言う。
「うおっ、ミライちゃん…見えそうっ!まさか誘ってる?!(笑)やらし〜い!」
「えっ?!」
冗談で言ったと分かっていても、恥ずかしさで何も言えずに胸元を握りしめる。
「あ~あ、言わなきゃ良かった」
コウヘイくんはへらへらと笑う。
「…おい、お前ちょっと調子乗りすぎ」
低い声で言い放つ瀬川くんは、これでもかと言うほどにコウヘイくんに顔を近づけている。
背の高い2人は私の頭上で睨み合い、目を離そうとしない。
ただならぬ雰囲気に、
「ごめんね、変なもの見せて(笑)はい、こっち向いて~」
となるべく明るい声で言う。
しかしコウヘイくんは瀬川くんの目をジッと見たままだ。
「…何?」
「何、じゃねえ。調子乗りすぎっつってんの」
「俺がミライちゃんに何言おうが勝手じゃん。それとも何、2人は特別な関係なの?」
「それこそお前に関係ねえだろ」
「「・・・・・・・・・・・・・」」
再び数秒間ふたりが睨み合ったところで、私は耐えきれず声をかける。
「ねぇ、もうやめて。ほら、そろそろ行かなきゃだから…帯、結ぼう?」
やっとコウヘイくんがこちらに向き直り、私は帯を仕上げる。
「ありがとう♪」
さっきまでのピリピリした雰囲気を感じさせないトーンでコウヘイくんは言う。
「もう、瀬川怒らないでよ~。俺だってね、ミライちゃんと話したいの!独り占め禁止~!」
瀬川くんも「ふふっ、馬鹿」と笑い、このまま2人が険悪な関係になってしまうのかと心配した私は内心ホッとしていた。
3人で宴会場へ出向くと、もうすでにほとんどの人が集まっている。
「来た来た。こっち~!」
平野に言われ、私はアンナと綾香ちゃんに挟まれる形で座った。