不純異性交際(上) ―ミライと瀬川―
第31章 秘夜
アンナもお目当てのご当地キャラメルを手に、
「このあとどうするの~?」
とこちらへ戻ってきた。
「旅館に戻って飲み直してもいいし、スナックも何軒かあるよ。あとラーメン屋と…そうそう。ストリップもあるみたいだけど(笑)」
平野が言うと、コウヘイくんを含む数人の男子が「えっ…?!」と鼻の穴を膨らめる。
結局それぞれ好きなところに分かれる事になり、アンナは「さぁ、飲むぞぉ~!」と男子を引き連れてスナックへ行くようだった。
瀬川くんと目が合う。
「…ちょっと散歩でもする?」
「うん!そうしよう」
私たちは目立たないようにそっと、みんなとは逆方向へ歩き出した。
平野がチラッとこちらを見ると、”早く行け”と目で合図をして、コウヘイくんの肩を掴み早足でアンナたちのほうへ歩いて行った。
みんなの姿が見えなくなると、私はそっと瀬川くんの浴衣の袖をつかみ、そのまま腕を組んだ。
ぼんぼりに照らされた川沿いの道に、2人の下駄の音が静かに響く。
時折すれ違う浴衣姿の観光客は、気にも止めずに私たちの横を通り過ぎていく。
こうしていつでも堂々と瀬川くんと一緒にいる事が出来たら、どれだけ幸せだろう…。
「なんでそんな顔してんの」
私はつい暗い表情をしていたらしく、瀬川くんがつぶやく。
「ううん、なんか…せつなくなっちゃって。今こんなに幸せなのにね」
彼は私の腕をほどき、ぎゅっと肩を抱き寄せてくれる。
密着したまま歩いていくと、『熱燗』という張り紙の横で沸々と温められたお酒が売られていた。
周囲には紙コップに入った熱燗をほくほくと口にする人たちの姿もある。
「飲む?」
「うん、せっかくだし飲んじゃおっか!」
私たちは歩きながら温かいお酒をすすった。
夜桜が綺麗にライトアップされているのを見上げ、花びらの美しさに「わぁ」と声を上げる。
しばらくぶらぶらと散歩を楽しんだ頃、少し身体が冷えてきた。
「ちょっと…寒いかも」
「そうだな。旅館に戻るか」
宿に戻ると、「おかえりなさいまし。」と女将さんが出迎えてくれる。
「女性が2人お帰りになりましたけど、他の方はまだお出かけです」
…綾香ちゃんとアンナはスナックで飲んでいるのだろう。
私と瀬川くんは階段を上がる。