不純異性交際(上) ―ミライと瀬川―
第40章 汽車
「すぐ食べる?」
「うん」
私がテーブルに皿を置くと、「パスタか…」とため息まじりにフミがつぶやく。
私は感情を押し殺し、これ以上この空間にいたくないと浴室へ向かった。
シャワーを浴びながら瀬川くんが付けたキスマークに触れる。
次はいつ会えるだろうか。
脱衣所で身体を拭いていると、ガチャっとドアが開いてフミが入ってきた。
私はビクッと激しく反応してしまい、瞬時にタオルで身体の前面を隠した。自分のやましさに動悸がする。
動揺を見せぬように「なっ…、…何?」となるべく平然を装って言うと、
「タオル取りに来ただけだけど?」
とフミは私の身体になど興味がない、ということを知らしめるようにそっけなく答えた。
今さらフミに女として見て欲しい、性の対象でありたいなどとは思わないはずなのに、私は無性にやるせなくなった。
寝間着を着て仕事部屋に行くと、私は瀬川くんへ電話をかけた。
数回のコールで、彼の声が聞こえた。
「もしもし?」
「あっ、…ごめんねいきなり…あの、…」
「お前から電話なんて珍しいね。どうした?」
優しい声に、私はつい甘えた声を出してしまう。
「えっと…特に、なにもないの。なにしてるかなって…」
「ふふっ。今、部屋片付けてた。ちょうどよかった、お前、なんか欲しいってつぶやいてたの…何だっけ?ほら、木のスプーン買ったときのさ…」
「え?…あぁ、箸置きかな?」
「あぁ、そうそう!箸置きだ。あとマグカップと…」
「布のコースター!」
「よく水を吸うから、ね(笑)」
「そう(笑)」
2人でクスクス笑い合う。
さっきまでのフミとの空気が嘘だったかのように、私の心は潤っていた。
「でも、あったらいいなって勝手に思っただけ。気にしないで、マグカップも瀬川くんのがあるんだし」
「いや、お前の買いに行こう。箸置きと…よく水を吸うコースターも」
「ほんと?」
「うん。そういうのどこで売ってんのか知らないけど(笑)、また映画でも見ながらブラブラ買い物しよう」
私は途端に嬉しくなり、顔がほころぶ。
「次、いつ会えるかな…」