不純異性交際(上) ―ミライと瀬川―
第7章 視線
お酒を一口飲んで、瀬川くんは言った。
「あいつを責めるわけでは全然ないんだけど…けっこう大変でさ、当時は。聞いてるかもしれないけど、荒れに荒れて。」
私は相槌を打ちながら瀬川くんの横顔を見つめる。
「だけど今は、まぁいわば一人暮らしだし。気楽だよ。」
「そっか……紀子は今は落ち着いたの?」
「んー…なんかよく分かんない。すげえ無責任かもしれないけど。俺の赴任が決まったときにアパートも引き払って…。それからあいつは自分の実家にいるんだよね。俺もたまには顔出すけど…正直、毎月は行ってない。話もほとんどしてない。」
「そうだったんだ。なんかうまい言葉をかけてあげられたら良いんだけど……瀬川くん、大変だったね…」
「ハハハ。べつにお前が落ち込む事じゃねーよ(笑)」
数分ぶりに瀬川くんの笑顔を目にして、これ以上暗い話はしたくなかった。
「でも瀬川くん、一人暮らしってちゃんとごはん食べてるの?」
私はなるべく明るいトーンで話題を変えた。
「食ってるって(笑)」
「自炊?!」
「いや、コンビニ」
「あのね、それ”ちゃんと食べてる”って言わないから!」
2人で盛り上がっていると、フロアからアンナとその取り巻きがこちらにやってきた。
「あれ~ぇ?この2人は、中学のときから今でも隣同士なんですねぇ~~?」
だいぶ酔っていそうなアンナは足がよろついている。
「ちょっとアンナ!大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫~!それよりさ、ミライ!!!」
言いながら、アンナはガシッと私の腕をつかむ。
「ダーツしよ~よ~!」
私が返事をするより先に、「よし、やるか」と瀬川くんが立ち上がる。