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お面ウォーカー(大人ノベル版)

第8章 二人目のお面ウォーカー

おばちゃんは、テーブルを分厚い手で強めに叩く。

「あんたら、なめとったらアカンで。うちはこう見えてな、家庭料理はもちろん、和食洋食中華、フランス料理からインドタイイタリアン、和菓子洋菓子スイーツ全般、修行して今がおまんねん。その気になればパンも焼ける、食に関しては女海原雄山と呼ばれたこの、日出子65歳に出来ない料理はおまへん。ご要望なら、フグ調理師免許も取らせていただきまっせ」とドスのきいた声で、凄んで見せる。この時、二人はお互い、

(名前が日出子って……屋号にある詩子って誰やねん)と思った。

「いや、おばちゃん、この前、燕の巣で、軒先にあるツバメの巣を落とそうとしてたやないでっか」

良夫が笑いながらそう言うと、居酒屋のおばちゃんは、良夫の胸ぐらを掴んだ。

「あんた、百のことあったら、百全部覚えてまんのんか? 阪神タイガースが好きや言うて、球団初期のメンバーから、現在まで一軍二軍、全部言えまっか? 調子のっとったら、ヨウシュヤマゴボウの根とキョウチクトウとベニテングタケの炊き込みご飯に、テトロドトキシンたっぷりのフグの肝のペーストぶっかけたの食わせまっせ」

「毒のあるもんばっかりですやん」

おばちゃんは、目を柔らかくすると、良夫から手を離し、

「嘘やないのぉ~、あんたらよう来てくれてはる常連さんに、そんなことしまっかいなぁ~。私は、ただの料理好きやで。修行言うたかて、調理師学校行って免許取っただけ。これは、私が今まで作ってきた料理のレシピやがな。今日はサービスに私が作る冷製パスタご馳走するわ」と態度を変えた。

良夫は、目を丸くしてガタガタと奥歯を鳴らしていた。

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