テキストサイズ

お面ウォーカー(大人ノベル版)

第10章 山田二郎

二郎は知らなかった。数量限定復刻版モデルで、一体三万六千円することを……。

時計はすでに午後9時半を過ぎていた。

車が止まったのは……警察署の前だった。

「田中さん、待ってて下さい」と言って、二郎は車から出ると、助手席の扉を開けた。

「出ろ、海奈」

海奈は、小さく頷くと、車を降りた。

「もう一度、自分は薬をやったとハッキリ言ってこい」と警察署の扉を指差した。

警察署はまるで、そびえ立つ要塞のように見えた。

海奈は、自分が映るガラス扉をジッと見つめていた。これが、今の自分の姿なんだと……。

ジャージは、組員が用意した誰かのお下がりだ。所々、タバコの焦げ跡が残っている。

二郎は、文字通りに背中を押した。

「人間としてやり直したいなら、もう一度、反省という滝に当たって自分を浄めてこい。後は、お前次第。望むなら、俺が迎えにきてやるよ」

組関係の風俗で働いて、借金返済を続けていくのは、百歩譲っていいとしたが、薬に手を染めたのは、自分の甘えだ。
その点をきれいさっぱりと洗い流し、もう一度、自分の前に現れてくれと言いたかったのだ。

二郎は組全体を破壊するつもりで、良夫と乗り込みたかった。

だが、予期せぬ事態が重なり、組長が負傷し、さらに、海奈への借金返済に関する書類とデータがすべて焼損したため、無効となった。

しかも、乗り込めば、そこに彼女がいたのだ。これは、良夫のもつお面の力が招いたのか?

後は、海奈が警察にすべてを語ることだろう。

海奈は、黙って警察署の中にその身を委ねていった。

そしてガラス越しから、海奈は振り返って、二郎に人差し指を立てた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ