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お面ウォーカー(大人ノベル版)

第1章 誕生

そうぼやきながらも、毛布から足を出す。スウェットやパジャマではなく、ジーンズと黒いソックスをまとった足だ。

寝間着に着替えることなく、布団に潜り込んだのだろう。

その足は、ゆっくりとこたつの中に引き込まれていく。

温もりを感じたのか、二本の足がこたつの中に突き刺さる。

五分ほど、その状態が続くと、大きく息を吸い、「せーの」と声を出す。

同時に勢いよく毛布から出てきたのは、ジーンズと緑色のトレーナー姿の中肉中背の男だ。

男の名は、田中良夫(たなかよしお)、42歳。プラスチックの部品を作る工場に勤めており、性格は横着、無頓着、もちろん想像通りの独身者だ。趣味は競馬とプラモデル。だが、プラモデルは組み立てる時間が無く、いくつかは箱のまま押し入れの中で眠ったままで、組み立てた模型は、テレビ台に置いた戦闘機一つのみ。

その横には、小さな瓶に入った模型用接着剤が置いてあるが、蓋のしまりが甘く、液状の接着剤が固まってしまい、使い物にならないまま放ったらかし状態だ。

柱に引っ掛けた温度計に目を向けると、部屋の中の気温は7度だった。思わず「寒い!」とこたつに潜る。

床に転がっていた、小型ラジオの電源を入れる。都合よく天気予報が流れていたが、耳を傾けると4月に入ってからも、1月上旬の気温だという。さらに、滋賀県の信楽では、氷点下を記録したと気象予報士は告げた。

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