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お面ウォーカー(大人ノベル版)

第5章 その顔で歩く

「オ面が取れナかっタら、外せバいいでシょ」

自分で言ってる意味が、わかっているのだろうか?

取れなかったら、外れることもない。

「いやいや、お兄さん面白いですね」

「あンたの姿の方ガ、面白いだロ」

それを言われたらお終いだ。

良夫は、なにか男が笑えるような話題は無いかと頭を捻るが、下手すれば刺されるような危険な局面に、なにも浮かんではこなかった。

男はさらに、良夫の服を引き寄せる。

「名前ト顔ヲ見られたラ困るでス。悪いガ、こコで死ぬね」

「いやいや、あなたが名前で反応して、フルネーム言っちゃったんでしょ。てか、落ち着いて……」

ナイフで刺すより、お面を削ってくれと言いたいが、話が伝わらない者に言っても馬の耳になんとやら。

だが、良夫の耳には聞こえた。

パトカーの、サイレンが。

チャンス……と思ったが、ナイフを向けられては、身動きが取れない。しかも、自分もお面をつけたままで、どちらかと言えば、こちらが怪しまれる。

「あ、あの、パルプンテさん、パトカーが来ますよ……」

「パトカー?」

どうやら、男にはサイレンの音が聞こえていないようだ。それに、なにやら震えているように見える。

「どコに、パトカーがアる?」

「え、音、聞こえない?」

耳を澄ましてみる。良夫の耳には確かに、サイレンの音をとらえている。しかし、それはすぐに止まった。

「あれ、止まった?」

「いい加減ナこと、言ウな!」

心なしか、男の歯が、ガチガチ鳴っているように見えた。


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