テキストサイズ

お面ウォーカー(大人ノベル版)

第7章 記者

良夫は、1時間残業した後、ロッカールーム奥にある会社の風呂に入っていた。

その後から、長谷川も入ってくる。

「田中さん、お疲れい」

「お疲れさん、いま入る前に、下の我が身を剥いたやろ」

「悪いか。最近、女房も抱いてないからご無沙汰なんや。たまには綺麗にみぞまで洗わんと」

その会話を聞いていた、入浴中の男性社員二人は思わず笑い出し、女とやったやらないの話に突入する。

中年男性の猥談が飛び交う浴室、ただ一人独身の良夫は、ただニヤニヤ笑うだけだった。

その浴室のガラス戸が、カラカラと音をたてて開いた。

顔を出したのは、勝重だった。

長谷川は腰を振り、我が身をピタピタと鳴らすと、

「課長、いらっしゃい! 珍しいね、入浴かい?」

勝重は苦笑いで、

「いや、風呂入りに来たんじゃないんだ。田中くんに用があってね」

「え、俺?」

良夫の顔は、引きつっていた。

うわの空で仕事をしていたため、不良品が出て、叱りにきたのかと思った。

勝重は、右手親指を後ろに向け、

「田中くんにお客さんが来てるよ。女性だよ」

「女性?」

「あぁ、たぶん朝電話してきた人じゃないかな?」

良夫は、ジャンプするように湯船から飛び出た。

10分後……、

半乾きの頭で、薄汚れた黒のダウンジャケットに、しわくちゃのジーパン。とても女性と会う姿ではなかった。

誰だろうと入り口まで来るが、口が匂うかもしれないと、トイレに入り洗面所で、石鹸を口に含んで洗った。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ