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お面ウォーカー(大人ノベル版)

第7章 記者

「マウスウォッシュか、口消臭のやつ買わないと……もう遅いか」

女性が自分に会いに来ている……そう思うだけで、緊張し、胸キュンしてしまう。

鏡に向かい、「食事でもいかがですか? なんでも注文したら出してくる摩訶不思議な居酒屋知ってますよ」とセリフの練習。

だが、そんなことをしている場合じゃない。俺の杉内美香が待っていると、トイレから出た。

杉内美香とは、良夫が好きな、競馬のCMに出ている女優の名前だ。

勝手な想像を膨らませ、会社の入り口まで向かった。

テーブルが置いてある、自動販売機の前に、一人のショートカットの女性が立っていた。紺のレディースダッフルコートにチェック柄のマフラー、下はベージュのパンツ姿。見た目年齢、28~32歳、良夫からすれば、道ですれ違うのが、やっとのタイミングでしか近付けない女性だ。

女性は、良夫の顔を見るなり、会釈しながらこちらに近付いてきた。

良夫は、顔を強張らせ、

「田中良夫です……訪ねてきた人って、おたくでっか?」

女性は軽く微笑み、肩から下げた白いバッグから、名刺を出した。

「私、ケータイニュース速報のユーザー記者をしております」

良夫は、名刺を受け取る。

「え……鈴木たこ?」

「鈴木夕子(すずきゆうこ)です」

「え……あぁ、失礼。鈴木さんですか……なにか私に用があるんでしょうか?」

夕子はクスッと笑い、バッグからスマホを出した。

「こちら、あなたで間違いないですね」

そう言って、向けられた画面には、暗がりに街灯で照らされた、お面姿の良夫が映っていた。

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