
りさと3人のDoctors
第76章 医者の卵
「何もできませんでした。何もできないのに、蓮先生が死戦期帝王切開の判断して、母体を優先するってなって、なんで2人とも助けられないんだろうって頭が真っ白になりました。」
「死戦期帝王切開っていうのはちゃんとわかってたのね。そこは褒めよう。でも、それで突っ立ってるようじゃまだまだだ。お母さんも赤ちゃんも両方助けたいのは誰もがそう思う。だけど、それを追求して間違った判断をすると、結果的にどちらも救えなくなる。そして、どちらかを選ばなければいけない時、母体優先が原則なんだ。わかるよね?」
「はい…。でも、こんなに苦しいなんて。外科でも死に至る患者は見ませんでした。たまたまかもしれないですけど、初めて見て、それもまだこの世界を見たこともない赤ちゃんだなんて…。」
と、りさが涙を流していると
「ちょっと。誰が死んだって言った?お母さんも赤ちゃんも無事なんだけど?」
「えっ?」
「あのさ〜、俺を誰だと思ってるのよ。もちろん、取り上げた赤ちゃんも助けたよ。お母さんも外科が助けてくれた。2人とも死んでなんかない。死戦期帝王切開は確かに胎児の命は考慮されないけど、俺はそんなことない。医師も看護師も揃ってて、そこに可能性があるならどんな命も救うよ。」
「にぃに…。」
