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蜃気楼の女

第22章 学園長・田所平八郎

 学園長はそう言いながら、目を閉じた。
「ああ、興奮もするかもね…… こうやって目を閉じれば、櫻子さんを感じる」
 しばらく目を閉じていた学園長が、ゆっくり目を開いた。学園長は櫻子を見つめて言った。
「さあ、この老体に見せてくれれば直ぐに分かることです…… 日本の教育はきっと変わるでしょう、期待してます……」
 櫻子は学園長にそう言われて、心臓の鼓動が速まった。平八郎はじっと櫻子を見つめている。平八郎の息づかいを感じ、全身が熱くなってきた。生まれて初めて顔を赤くし恥ずかしい、と思った。人に見せてはいけない部分だから隠して服を身につけている。それを取り除いて、見せる。何言ってるの? この好色じじい、エロじじい! 変態親父、一昨日来やがれ、って、会ったときに言っていた今までの自分。そう思っていた自分がいたが、今は、違う。この人には違う感情がわき上がっている。この人にはすべて見てもらいたい。そう思いながらも、恥ずかしい。何故だろう。そう思うと、自分の頭がどうか、なってしまったのか? 人は弱い部分を隠したい。見せたくない。弱い人間と思われたくない。醜い人間と思われたくない。櫻子はどうしたらいいのか分からなくなって、学園長に向けていた顔を伏せた。
(どうした? おまえ、最強の超能力者だろ? )
 そう思いながら櫻子は、平八郎の前では無力同然になっていた。止めどもなく、櫻子の目から涙がこぼれた。この気持ちって何? エロじじいをそそのかし、取り込もうと思っていた野望はどこかに消し飛んでしまった。櫻子はそんなよこしまな気持ちを抱いていたことが恥ずかしくて、後悔している。そんな気持ちがあるからなのか、止めどもなく流れる自分の涙に驚いた。日本を乗っ取ろうとする非道な魔性の女には似合わない涙だ。よこしまな考えがこの涙と一緒に体の外にすべて流れて、平八郎のお陰できれいな心と体を取り戻せる気がしてきた。
「櫻子さん、ごめんよ…… 無理なお願いをして…… こんな老人の夢…… でも、こんな気持ち、わたしは…… 久しく感じていなかった…… どうして、こんな気持ちになったのか? きみともう一度新しい人生をやりたくなったからかもしれない。一緒に生きるには、君のすべてを知り、一緒に歩んでいきたい。そう思った…… この老体にきみのすべてを見せてほしい……」

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