
蜃気楼の女
第23章 櫻子VS尚子
櫻子は両腕を胸の前で組み、口をへの字に曲げた。その顔を見て尚子はクスッと笑った。
「お姉さま、そういうお姉さま、キュートですね。あたし、そういうお姉さま、好きです」
尚子は櫻子をじっと見つめている。尚子の表情に、櫻子は嫌な予感を感じた。櫻子は顔をわずかに紅潮させながら言った。
「あんた、早く平八郎さんのところへ案内しなさいよ!」
櫻子は櫻子の顔を見つめたままぽっとしている尚子の額を人差し指で押した。
「あっ、すみません」
櫻子を見つめてしまったことに気が付いた尚子は、顔を赤面させ、慌てて、櫻子の前から離れ歩き始めた。彼女は、食堂から出ると、平八郎の部屋に向かった。尚子に好きと言われた櫻子は少しだけ嬉しかった。櫻子は前を歩く尚子に声を掛けた。
「ねえ、あんた、絶対、許さない、って言ってるでしょ。シカトするんじゃないわよ!」
尚子は振り返ることもなく、今日は春の陽気で暖かですねえ、と小さな声で話をそらし、歩く速度を速くすると、さらに離れていく。その後を櫻子は追うように急いで歩いた。元気な平八郎に会えるなら、まっ、いっか、と櫻子の怒りは消えていった。それどころか、今は嬉しくて気持ちが高揚していた。平八郎が大切な人だと自覚できた櫻子は、好きになれる気持ちが自分にもあることを心から喜んだ。そんな気持ちは初めてのことだ。
長い廊下を歩いていた尚子は、平八郎の部屋の前で立ち止まり、ドアの前で直立した。
「学園長、おつれしました。入ります」
「尚子くんか? やっと来たね。待ちくたびれましたよ」
櫻子はその声で心臓の鼓動が速まった。声は平八郎の声そのものだ。尚子はドアを開けて中へ進む。櫻子も続いて入る。目の前のベッドに男が寝ていた。男の周囲には機器が置かれ、その機器から出たチューブが男の体とつながっていた。天井を向いていた男が顔を櫻子のほうへ向けた。かなり高齢の老人だ。
「櫻子さん、やっとお会いできましたね。田所平八郎です。この姿が僕の本当の姿です。驚かれたでしょうね」
「お姉さま、そういうお姉さま、キュートですね。あたし、そういうお姉さま、好きです」
尚子は櫻子をじっと見つめている。尚子の表情に、櫻子は嫌な予感を感じた。櫻子は顔をわずかに紅潮させながら言った。
「あんた、早く平八郎さんのところへ案内しなさいよ!」
櫻子は櫻子の顔を見つめたままぽっとしている尚子の額を人差し指で押した。
「あっ、すみません」
櫻子を見つめてしまったことに気が付いた尚子は、顔を赤面させ、慌てて、櫻子の前から離れ歩き始めた。彼女は、食堂から出ると、平八郎の部屋に向かった。尚子に好きと言われた櫻子は少しだけ嬉しかった。櫻子は前を歩く尚子に声を掛けた。
「ねえ、あんた、絶対、許さない、って言ってるでしょ。シカトするんじゃないわよ!」
尚子は振り返ることもなく、今日は春の陽気で暖かですねえ、と小さな声で話をそらし、歩く速度を速くすると、さらに離れていく。その後を櫻子は追うように急いで歩いた。元気な平八郎に会えるなら、まっ、いっか、と櫻子の怒りは消えていった。それどころか、今は嬉しくて気持ちが高揚していた。平八郎が大切な人だと自覚できた櫻子は、好きになれる気持ちが自分にもあることを心から喜んだ。そんな気持ちは初めてのことだ。
長い廊下を歩いていた尚子は、平八郎の部屋の前で立ち止まり、ドアの前で直立した。
「学園長、おつれしました。入ります」
「尚子くんか? やっと来たね。待ちくたびれましたよ」
櫻子はその声で心臓の鼓動が速まった。声は平八郎の声そのものだ。尚子はドアを開けて中へ進む。櫻子も続いて入る。目の前のベッドに男が寝ていた。男の周囲には機器が置かれ、その機器から出たチューブが男の体とつながっていた。天井を向いていた男が顔を櫻子のほうへ向けた。かなり高齢の老人だ。
「櫻子さん、やっとお会いできましたね。田所平八郎です。この姿が僕の本当の姿です。驚かれたでしょうね」
