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蜃気楼の女

第23章 櫻子VS尚子

 櫻子は男の言葉の意味が分からなかった。言葉はかすれ声量がない。櫻子は平八郎と名乗る男の声をしっかり聞きたくて、そばに歩み寄った。平八郎は口に酸素マスクを付けていたが、醜い野獣にしか見えなかった。
「え? あなたが平八さんなの? どういうこと?」
 櫻子は平八郎の体の状態を感じ取った。この人はもう長くは生きられない。今までの流れから、平八郎は学園長の後継を探していた。そうとしか考えられない。
「尚子くん…… 君から説明してくれますか…… ゴホゴホゴホ」
 平八郎は話すと呼吸が苦しくなるようだ。
「では、あたしから詳細を説明しますので、学園長も聞いてください。もし、訂正があるようでしたら、別の時間にドールで櫻子さんにお話しください」
「何なの? あんたがさっきから言ってる、ドールって?」
 櫻子は尚子に問うと、尚子はたった今、入ってきたドアを見ながら、
「あれです」
 尚子が見ている先に、櫻子も顔を向けた。そこには先ほどまで食堂にいた平八郎が立っていた。平八郎が部屋の片隅にあるひつぎのようなプラスチック製の箱まで歩いていくと、後ろ向きに体を反転させて箱の中へ入った。箱の上部にあるモニターが光り、充電中という表示が出た。
「メンテナンスを開始します」
 箱のどこかからアナウンスが流れた。
「何?? 人形なんてものじゃないわ、ロボットだったの? 信じられないわ。まるで人間じゃない?」
 驚いて質問した櫻子は、尚子の答えを待った。櫻子の反応に気をよくした尚子は、愛らしい顔を崩し得意げに話し始めた。

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