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蜃気楼の女

第25章 1週間前

「ねえ、いつでもいいよ……」
 橋本は美少女に告げると、こんなかわいい子のわなにかかって、終わるのかと思うと、自分が情けなくて涙が出てきそうだった。そう思いながら、周囲の視線の原因が分かった。ずっと、この美少女と手を握り合っていたからだ。学園前からずっと手をつないでいたから慣れてしまった。親子、兄弟ならこんなふうに握っていないだろう。橋本の額に冷や汗がにじみ出ていた。この少女とつないでいる手も汗でびっしょりだ。橋本が手をはずそうとすると、尚子はさらに強く握ってきた。思わず尚子を見つめた。すると、つぶらな瞳を橋本に向けてきた。
「おじさんの手、暖かいね…… 暖かくてすごく気持ちいい…… ずっと、このままでいいですよね」
 少女が隣の席で橋本に肩を寄せて来て、よく聞き取れないくらい小さい声でささやいた。橋本はその声を聞くため体を少女にさらに寄せてしまった。蛇ににらまれた小動物の心境だった。いつでもこの美少女に飲み込まれる。俺は児童への性犯罪者として、この世から抹殺される。
「助けてください、手を握られて、逃げられないんです!」
 美少女の雄たけびが予想できた。そんなことを考えているとき、少女がまた橋本の耳元に唇を寄せてきてささやいた。

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