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蜃気楼の女

第26章 屈強の男・橋本浩一

 橋本は驚いている尚子の体を両手で抱えてから腕を伸ばし遠ざけた。
「それはこれからもっと知り合ってからのほうが良くないか? 俺にその気がないもの、ごめん……」
 橋本は遠ざけた尚子の体をさらに押して離した。
「そんな……あり得ないわ……」
 尚子の満身の魔性念力が橋本には一切通じていない。進一のときと全く同じだ。相手の脳内の思考に入り込めるが、体の操作をすることは、尚子にはできない。尚子には大きな弱点があった。心から愛する人には肉体を操作する力が抑制された。愛する人を自分の思うままに操る。そんな非道なことに、良心のかしゃくが生じた。自分の愛した人には、その人の愛で、自分を愛してほしい。心から望んでいるからこそ、心のブレーキが本能的に働いた。レイプは鬼畜や悪魔たちのすることだ。魔性の女の血を受け継ぐ尚子に、日本人としての本能が、人間としての尊厳を失うな、と叫んでいた。

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