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蜃気楼の女

第28章 決断

「おじさん…… 学園長は、いつ、天国へ行ってもいいくらい…… 病気の状態が悪いです……」
 話す尚子の声がかすれていた。尚子が額を橋本の背中に強く押しつけてきた。
「わたしの予知能力を使うと…… 脳の活動が…… あさって限界を迎えます……」
 尚子は途切れ途切れになりながら、学園長の様態を橋本に説明した。自分の能力で、人の死に際を知ることができる。そのことを本人には知らせていいか判断することすらできない。好きな人がいなくなることが分かっても、何もできない。それが悔しいと尚子は言う。
「人が死ぬ時間がきみには分かるのか?」
 橋本の疑問に尚子は説明する。田所の進める教育改革には体に障害を持った人たちが生活しやすいように支援するため、Androidタイプのドールを開発している。精神的な支援に対し、物質的な支援である。ガンダムという漫画をヒントに、操作する人間がロボットの体内に入り、力を増幅させることが可能になる話である。その応用で、体に障害がある人に、そのパーツを装着する。その応用で、心、精神に障害を持った人も、脳の一部に、CPUを装着するのである。CPUとは中央演算解析装置といって、パソコンで使われる部品の名前である。いわゆる人間の脳と同じ機能をつかさどるパーツである部品の理論を、再生細胞脳に、電気信号を送り移植する。再生細胞で構成された脳の組織に電気的に記憶させることに成功したという。その開発のために尚子の超能力を使ったというのだ。田所平八郎はテクノロジーに注力した人で、学園では尚子に超能力を使って開発をするよう委ねられたという。橋本の言う花魁(おいらん)専攻学科なんて存在しないが、そんな秘密の開発をしていたことがうわさを生んだのではないか。部分的ではあるが、実用化のできる段階にきた。その初めての実用化検証が学園長と橋本になる、と尚子は言う。

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