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蜃気楼の女

第29章 初めての学園

「俺が田所の意志を継げるか自信はないが、田所ほどの男が俺を見込んでくれたんだ、期待に応えられるようやるよ。尚子は、安心して、俺に付いてくればいい。まあ、しばらくはハラハラするだろうけどな……田所さん、あんたの思い、継ぐよ……」
 泣いていて田所の胸にしがみついていた尚子は上半身を起こし、橋本に体を向けた。
「うん、おじさんなら、できるよ。だって、もう、あたし、おじさん、なしでは駄目だね…… おじさんのそばにいると安心するの…… おじさんの超能力だったんだね…… もう、あたし、変なエッチな気持ち、起きないんだ…… おじさん、うれしいわ……」
 しばらく、学園長は唇を上下に小さく動かしてはいたが、ついに、言葉を出すことはできず、うっすら開けていたまぶたを静かに閉じた。
「おじさん、学園長がありがとうございますと言ってました。後継者橋本浩一を見届けられず、すまない、って、言ってました」
 そう言った尚子は橋本に向けて満面の笑顔を作ると、橋本に勢いよく抱きついてきた。橋本には、尚子の小さな体が橋本の胸の中でさらに小さくなったような気がした。あんなにこの美少女に恐怖を感じていたのにみじんも感じない。田所の言うように、俺の超能力が尚子の邪心を押さえ込んでいるのかもしれない。この子は俺の前では従順な美少女なのだ。橋本は尚子の邪心を封じ込めたことに、これからの自分の生き方に自信が生まれた。
 田所が麻酔注射により深い眠りについたとき、田所の分身であるAndroid型平八郎タイプのドールが教壇に立っていた。尚子の開発しているドールも数々の改良を重ね、本体が眠ってしまっても、あらかじめ記録させていたメモリに田所の日常パターンが登録されていた。本体が意識を失って指令を与えずとも、4日間はAI(人工知能)付自動運転機能が働き活動をしているのである。ドールは主人がこん睡状態、あるいは死亡状態になっていることも知らないで、淡々と授業を遂行していた。その授業の様子の一部始終を教室の後ろから見つめている山野櫻子がいた。

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