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蜃気楼の女

第31章 成功した発明と失敗した発明

「ねえ、おじさん、体の調子はどう?」
 顔を気にすることはないという尚子でさえも気になるほど、全くの別人になった橋本の顔を見つめた。顔が、いわゆる世間で言われるところのイケメン、男前、美男子という部類の人相に変貌していた。
「ああ、とても気持ちいいよ…… 尚子、すごいよ、また、いきそうだ」
「そこのことより、今はおじさんの体…… 特にお顔が変形しちゃった…… みたいなのね…… まあ、おじさんの場合、結果として、かなり変な具合に変形した、って言っていいのかなー? 上半身は今までより一回り筋肉もりもりだし…… もちろん、おじさんの下半身の筋肉、特に大臀筋(だいでんきん)も、そして、あたしだけのジュニアちゃんも、とっても元気そうだわ、今も、カチカチ、すごく固くていい感じよ…… 力が前より増したーーみたい? あたしの発明がここは大成功だったみたいな? お顔は大失敗だったかなー っていう感じーー? ……」
 そう言った尚子はベッドから飛び降りて、脇机の引き出しから手鏡を引っ張り出して、橋本の顔の前に手鏡を差し出した。
「おじさん、まあ、見て…… 別人になってるのよ…… お顔をよく見て……」
 橋本は尚子から顔の前に差し出された手鏡を手に持ち自分の顔にかざした。
「えっ? 何でこうなるの? どこの人?」
 橋本は手鏡を見ながら、もう片方の手で、あごやほおを触ったり、つねってみたり、引っ張ってみたり、して確認した。
「こりゃ、どういうことだ? 俺の顔に違いないよ。皮膚は俺そのものだ…… 痛いし、ちゃんと感覚はあるぞ…… なあ、脳だけにメモリを移植するんだったよな?」
「う、うん、もちろん…… そ、そうよ、脳へ再生細胞を移植されるだけのはず…… よ…… でも…… なんか…… お顔の骨格、人相を変えてしまったみたい…… まじ、ミスった?」
 そう言いながら、尚子は橋本の顔をのぞき込んでいる。
「フーン…… そうなんだ…… 俺は別にいいよ、これ、なかなか…… 男前だもの…… まるで美容整形したみたいなイケメンだな…… 俺、これ、いいよ、気に入ったな、この顔……」

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