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蜃気楼の女

第32章 櫻子VS尚子

 安田尚子は山野櫻子とAndroidがいると思われる寮の食堂へ向かった。尚子が寮の食堂の入り口の前で立ち止まると、櫻子とAndroidがテーブルの前にいるのを発見し、青ざめた。Androidは機能を停止し動きが止まったようで、腕が動作の途中のままの体勢で腰掛けていた。Androidに何かのトラブルが起きたようだ。本体である学園長の死亡から時間的に機能を停止するには速すぎる。その平八郎タイプAndroidに櫻子が懸命に話しかけていた。嫌な予感がした尚子は、機転を利かせ、自分のnaokoタイプAndroidを櫻子のところへ向かわせることにした。尚子はまだ会ったことのない櫻子が、心底、怖かった。尚子に防衛本能が働いた。食堂の入り口から来た道をきびすを返し、廊下を走った。
  *
 廊下を走ってきたnaokoタイプAndroidは、食堂の入り口からそっと静かに入り、櫻子と学園長がいるそばへ近づき、櫻子に向かって声を元気よく掛けた。
「へーい、櫻子さーん! はじめまして」
 そう言って、笑顔を振りまく少女が誰か櫻子には直ぐ分かった。安田尚子だ。日本上陸3日目にしてついに尚子に対面した。櫻子は数秒尚子を凝視すると、ゆっくりした口調で話した。
「こ、これって…… もしか…… すると、あなた、平八郎さんを…… 操っていたの?」
 櫻子は今までの平八郎が本当の姿ではなく、尚子に操作された平八郎だったのでは、と直感した。

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