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蜃気楼の女

第32章 櫻子VS尚子

「あんた、あたしが来ることを知って、学園長を操り、すべてを準備したの? あたしのことを知ってるの? あたしが日本に来た理由を知ってるの? あなた、何もの?」
 反応しない平八郎の様子に気が動揺していた櫻子は、怪しげな登場をした尚子に矢継ぎ早に質問を浴びせた。そっと近づき、平八郎の後ろから顔だけで出していた尚子が、体を現した。尚子は濃紺のブレザーとグリーン地のチェック柄スカートを着ていた。膝上のスカートから出た生足はまだふっくらした少女の肉付きだ。ハイソックス、黒の革靴。この学園の制服か。おととい、この学園に到着したが、土日で授業が休みだったので学生を見ていない。ここへ来て初めて見た生徒が尚子が初めてとは驚いた。こんな感じの子がこの学園には集まっているのだろう。つまり、日本という国はこんなあどけない美少女がいる国だ。日本は平和な国だ。平和だから生への執着、闘争心がない。若ものは平和という恩恵を受けながら、惰性で怠惰に生きている。ずぼらで、ていたらく民族だ。
「あら、操っていたなんて。櫻子さまの魅力を学園長に詳しくお話ししただけです。今までの櫻子さまへの思いは、学園長の素直なお気持ちです」
「じゃ、何? この平八さんの今の状態は? 体が固まったままよ…… 電池の切れた唐変木の人形じゃないの? これってどういうこと? あんた、ちゃんと説明しなさい!」
 櫻子は、尚子が平八郎の体を乗っ取り、今まで、唐変木学園長として行動させ、自分の心を平八郎を使って踊らせていた。そう思うと腹が煮えくり返ってきた。あたしの愛しい平八郎をどうしたの? 返事次第ではただでは済まないわ。櫻子の中で怒りがフツフツと、燃え上がってきた。
 カタカタ、カタカタ、櫻子の立っている周辺の家具や装飾品がわずかに上下に振動し始めた。いくつかの椅子が床から離れ出し、空中に浮き始めた。それを見た尚子の顔が引きつった。

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