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蜃気楼の女

第32章 櫻子VS尚子

 そのとき、調理室にある秘密の抜け穴を通って、Androidと櫻子のやり取りを静かに見ていた尚子が、櫻子の前に姿を現した。壁に吹き飛ばされて体の手足が変な方向に折れ曲がって横たわっているnaokoタイプAndroidを見て、尚子は一瞬後ずさって、膝から崩れると、床に尻を付けて座り込んだ。
「ハー、何よ、これって? マジでヤバかったー! naokoタイプドールで良かったー、あたし、こうなってたもの、アー やっぱ、怖ーい、おねえーさまーだったー」
 失意に打ちひしがれていた櫻子は、抱いていた平八郎の上半身から顔だけを尚子の声のする方向へ向けた。たたきつぶして身動きしない尚子の遺体のそばに、尚子と同じ格好をした少女が、尻を床に付けてへたり込んで肩で息をしている。
「エェー あんたが二人? ど…… どういうこと??」
 二人の尚子を見た櫻子は何が何だか、訳が分からなくなった。床に座り込んでいた尚子は、顔を櫻子に向けて慌てるように言った。
「そ、それって、ドールです。かなり精巧なAndroidです。まだ、指示通りにしか動かないので、基礎の き、ができたって段階です。学園長本体は別室で元気にしていらっしゃいますのでご安心ください。それでは、これから学園長のところへご案内しますぅーー」
「何? これは平八さんの人形? 今まで、人形を使ってあたしをだましたの?」
「ウーーーン だました、って言うか、このドールの性能を櫻子さんに見てほしかっただけです。深い意味はありません。学園長もこういうテクノロジーが好きな人なんでこういう展開を仕組んだんです。学園長って、結構、いたずら好きで、お茶目なんですよ。でも、結果、櫻子さんを怒らすようなことになってしまって、申しわけありません、ごめんなさい!」
 そう言って立ち上がった尚子は、気をつけの姿勢を取り、両手のひらを膝まで伸ばし深く腰を折って頭を下げた。櫻子は今での怒りが何だったの? 自分が愚かに思えてきた。

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