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蜃気楼の女

第32章 櫻子VS尚子

 平八郎は話すと呼吸が苦しそうに見せた。それを見た尚子は、
「いいよ、おじさん、うまいねー」
 と心の中で、しゃべらないための演技に感心した。
「では、あたしから詳細を説明しますので、学園長も聞いてください。もし、訂正があるようでしたら、体調のいいとき、ドールで櫻子さまにお話しください」
「何なの? あんたがさっきから言ってる、ドールって?」
 櫻子は尚子に問うと、尚子は部屋の隅にある人間と同じサイズくらいのまゆのような形をしたものが5個ほど並んでいて、その中の一つを手で示した。
「あれです」
 尚子が見ている先に、櫻子も顔を向けた。半透明のまゆの中に、食堂にいた平八郎が入っているのが見えた。さきほど、動かない平八郎を食堂に置いてきたはずである。櫻子には平八郎が目を閉じ立ちながら寝ているように見えた。
「稼働準備完了」
 まゆのあたりからアナウンスが流れた。すると、平八郎が目を開いた。そう白だった顔に血色がよみがえった。
「何?? 人形なんてものじゃないわ、それもロボットだったの? 信じられないわ。まるで人間じゃない?」
 驚いて質問した櫻子は、尚子の答えを待った。櫻子の反応に気をよくした尚子は、愛らしい顔を崩し得意げに話し始めた。
「この学園の寮はこの人間型ロボットの工場です。学園長は寮生がいなくなった空き部屋に別の役割を与えました。学園長の教育方針は、すべての人が楽しい社会活動ができるようにする。そういう人間に育てる教育です。誰もが助け合いながら、社会に貢献する。

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