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蜃気楼の女

第32章 櫻子VS尚子

 しかし、そういう理念は今の生産性を上げるために競争している現代社会ではなかなか受け入れられません。そこで、心身に障害を持った人を医療用補助スーツを使って支援することを当初の教育目標にしました。つまり、体に障害を持った人に社会貢献できるようにサポートする。そういう心をもった人間を育てる教育です。そういう考え方を持った女性を増やすことで、学園長は社会は互いが協力し合い、明るく幸せな生活を送れると、これを開発することで確信しました。
 わたしも学園長の考え方に共感し、この学校に入学しました。あたし、現在2年生です」
 櫻子は学園長と尚子の二人の話を聞いて驚いた。自分の思想とはまるで相いれない思想に思えた。
「あんたとわたし、年が一つ、違うだけだわ。それなのに、そういう考え方ができるなんて、あんた、すごい、偉いわぁー
 それに、あんた、このAndroidをわずか1年ほどで作ったと言うこと?」
 櫻子は驚きながらも、そんなきれい事を言って、この子もお嬢様育ちのお子ちゃまに違いない。人間にりっぱな道具を与えても、全部がそんなきれいごとで、相互協力ができる人間に育つわけがない。
 櫻子はアラビアーナ国でラービアとして育ってきた経験からそう思った。人の心は育った環境で変わる。虐げられた民は、虐げられた思考で、妬み、そねみ、あらゆるマイナス思考に人生のすべてを支配されてしまう。人生の途中で劇的に変化することはない。幼児期の環境はそのまま、青年期をも支配する。成人期にすべての財宝を得たとしても、幸福を得たとしても、死ぬまで、幼児期の環境で得た思考に死ぬまで支配される。
「あたしもそう思います。あたし一人では日本は変えられない。だから、2年前、ラービアさまとともに学園を盛り立てていきますと学園長には話しました」
 櫻子は尚子が自分の母国での名前を知っていることに驚いた。さらに、2年前から櫻子の存在を知っていたという。
「あなたって? 何者なの?」
「櫻子さま、あたしと友だちになってください。あなたの会いたがっている健康な学園長にお会いできるようにします」

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