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蜃気楼の女

第32章 櫻子VS尚子

 尚子の言うことに櫻子は驚いてばかりいた。尚子は心を読み取る超能力があるのだろう。それに、知能が高い。知能指数(IQ)180。その能力を見つけたのが、平八郎だ。その能力を見い出した平八郎は、尚子を教育し、ドールの開発を担わせた。
 平八郎は日本の青少年に明るく生活できる社会をつくらせる、心からみんなが幸せを感じられる、そのための種をまく教育を進めた。彼らの心を希望に満ちた未来に導く。そのため、まずは強じんな心身に鍛える必要があった。
 第1段階として、種を誕生させられることのできる女性の心身を強くしていかねばならない、と考えた。
 第2段階はそれに感化された女子から、男子に種をまいてもらうのである。男女にまかれた種が、日常の生活の中で開花したとき、日本の社会から、憎悪、嫉妬、いじめ、差別、暴力、ハラスメントを消し去ることができる。それが平八郎の教育理念である。
 つまり、第1段階、女性の自立を目指した教育だ。数人の投資家が彼の考えに賛同し、学園設立に向けて出資し、この学園が誕生した。崇高な教育理念に賛同を得てから、30年余、平八郎の教育は足踏みを続けた。種はなかなか花を咲かせない。平八郎はもっと大胆な方法に寄らなければ改革できないと思い始めた。
 なかなか進まない教育改革にいらだつ平八郎に、邪悪な教育理念が沸々と湧き上がろうとしていた。彼は虐げられた男として幼少期を育ち、その生い立ちはトラウマのごとく彼を苦しめた。彼は世間で言うところの器量の悪い男、野獣と周辺から陰口をたたかれた。平八郎が思いを寄せた女性はことごとく平八郎の醜いひしゃげた鼻を見てあざ笑った。教育理念は尊敬されたが、人間として、あまりにも器量の悪い男だったばかりに女性から拒絶された。彼の容姿を、見た目を判断された。顔の造形は個体の特徴に過ぎない。
 しかし、個体の特徴、第一印象を重視するものがほとんどである。男も女も、第一印象を外見、造形、格好、体形から判断する。つまり、自分にとって不快になる者は避けられる。快感を感じる者には好意を抱く。ほとんどの人間がそういう脳を持っている。種の防衛本能という。自分の命を守るため、危険なものを真っ先に排除するためである。ナイフ、包丁などを持っていたら、誰でも、警戒するのと同じなのである。

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