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蜃気楼の女

第32章 櫻子VS尚子

 彼の人相は、彼の本性、習性、良い行動を知る以前の段階で、つまり、第一印象で受け入れられない醜さなのだ。
「やだー、何、キモくない?」
「うわー、こいつ、良く生きていられるわ」
「もう、あんた、死んだら!」
「俺の前に来るな! 目障りだ!」
 彼は、乳幼児期から、自分に向けられた心ない言葉に傷つき、そんな人間に報復をすることをひそかに抱き始めていた。それが安田尚子の入学を機に、邪心の芽を抑制するたがが外れた。彼は尚子の異常と言える能力を知って、彼の良心の陰に巣くっていた邪心と、尚子の変質的な性癖が共鳴した。ついに、彼が長く隠蔽(いんぺい)していた邪心の種が成長を開始した。否、邪心が出現したと言うべきか。櫻子も平八郎も邪心に支配されようとしている点で同類だった。
 平八郎が目指す教育とは女性の自立であったが、尚子の持つ異常性愛行動(隣人の青年をよなよな超能力により自慰行為させ、その光景を見ることで、自らもエクスタシーを得ていた。自らのオナニーでは快楽を得られず、相手への精神的な刺激、暴力によって、相手の反応を楽しむ。相手がオーガズムに達した反応を見ることで、自らもオーガズムを得ることができた)を好む尚子の出現によって、器量の悪い男でも愛することのできる女の教育、否、調教することに変質してしまった。外形、容姿、姿態等がいわゆる器量の悪い男をも愛することができる心を持ったアラビアーナ国の女に調教する。アラビアーナ国の女のようにするには、物理的に2,000年の時間が必要だが、田所の目指す学校は、高校生活3年という短期間で、女子生徒をアラビアーナ人が構成する女集団のように調教する学園へと教育方針を大きく変えた。
 以来、器量の悪い男の彼は男にとって都合のいい女性を育てる教育方針へと、方向性がゆがんでいった。その歪んだ平八郎の心を救ってくれたのが櫻子だった。邪心にむしばまれ始めた櫻子は生い立ちが、学園長とは真逆であった。性格が形成される幼少期、器量の悪い男の学園長は虐げられて育った。

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