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蜃気楼の女

第34章 医療用再生細胞移植術カプセル

「ねえ、あんたの作った何とかカプセルってさ、今、どうなった?」
 櫻子が尚子に聞いた。尚子が正気になると、いつも笑顔を振りまくお姉様のキュートな顔が目の前で尚子を見つめていた。尚子は一瞬、櫻子の唇にキスをしようとして、顔を近づけてしまった。
「だめ!」
 櫻子はふいっと、顔を横に向けた。
「あんたね…… あたし、男日照りなのよ! あんたに走ったら困るでしょ! あんた、かわいすぎるもの……」
 そう言う櫻子は体をもじもじして天井に顔を向けて困っていた。そんな櫻子を見た尚子はクスッと笑った。気を取り直した尚子は真面目な顔をして言った。
「あの失敗作がどうなったか、知りたいのですか?」
「え? あれって、失敗だったの? だって、平八さんは若返ったわよ」
「はい、細胞は活性化し、新しい細胞を増殖させました。その新しい細胞が学園長を葬りました。今、いるのは全く別の学園長です。それも…… いつ、邪心に包み込まれるか分からない。優しい学園長を葬り去った……」
「え? 葬り去ってなんかないよ…… 今でも、あたしにはいつもの優しい平八さんよ」
 櫻子が学園にやってきたとき、尚子には田所の脳がすでに邪心に支配されていたことを見抜けなかった。邪心に満ちた学園長は、巧みな演技で、最初の2日間で、櫻子を完全に取り込んだのだ。そのために、アラビアーナ国からラービアを誘い込んだ。櫻子を自分にとっての日本を脅迫するための切り札として使うため、拘束した。櫻子は今も自由で好きな時間、好きな場所へ行動することができる。

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